電脳化の恐怖

電脳化は恐ろしい。

電脳とは攻殻機動隊に出てくる物語上重要な位置を占める仮想のガジェットである。電脳化とは具体的には頭蓋骨に穴を空けて*1マイクロマシンを注入し、首の後ろ側などに外部との接続用のコネクタを埋め込むということを指しており、作中にはその手術風景も出てくるのだが、別に手術が怖いわけではない。


脳内に浸透したマイクロマシンはそれら自体がセンサーやネットワークの配線の役割をかねていて、「脳の状態や電気信号の分布」を外部接続に向けて/から送受信できる。ここでポイントなのは状態をセンスして送り出すだけでなく、外部からの受信ができるというところである。外部から受信できるという機能によって例えば音声を使わずに会話ができたりするわけだが、これはマイクロマシンが情報を受信した「バトー、聞こえる?」等といった信号を「僕」も受信しているということであって、つまりマイクロマシンは「僕」の状態を聞こえる前の状態から聞こえた後の状態に書き換えられるということだ。こいつは非常に恐ろしい。

この機能はうまく使えば自分自身を望むように書き換えられるだろう。例えば、この記憶は消去、この情報は圧縮しておこう、7時になったら目がさめるようにカウンターを設置…、というように。何が恐ろしいのか。そういう書き換えを望む「自分自身」も書き換えられるかもしれないというところだ。そうなったらもう何がどうなってしまうのかわからない。「意思決定事項ができるたびに人格を分裂させて勝負させて勝った方の意見を採用」ぐらいはまだ判りやすい方で、もっと訳のわからない状況がありうるだろう。

この循環は電池の+と-を直につなぐようなこととは違って、「何も考えないようにしよう」ということも考えないようにしよう」ということも…」のように無限に続きうる。また、自己啓発や学習とは違って、「自分自身」の依っている基礎部分を直に「自分自身」でいじれてしまう。何かよくわからない循環をまさにブートストラップ*2してしまう。

電脳化技術が実現するにはヒトの意識に関して深い理解が必要であろう。またそれが実現しようがしまいが、人類はヒトの意識について理解を深めていくことになるだろうけれど、その極限の体現として、自分自身の事を完全に理解している自分自身というものを考えるとまた恐ろしい。一体その内側はどうなっているのか?

*1:全身義体化する場合はそもそも脳を頭蓋から取り出す

*2:人間のDNAやらをいじるのも似ているけれど、入力と出力が1世代ずれるので循環が遅い。でもたった1世代なので油断はならない。コーディネーターのように頭がよくて運動できてハンサム、レベルで終わりになる保証は全然ない